自民党県議団が県議会に提出した意見書案に対するアピール

2024年3月5日

福島県立高等学校教職員組合執行委員会

 

福島県議会自民党は、現在開会中の県議会に、政府に対して意見書を出すよう提案しました。意見書案では「国は科学的な根拠に基づいた情報を発信し、とりわけ子どもに対して理解醸成に努めているが、教職員組合の集会で科学的根拠に基づかない汚染水という表現で授業を行った報道があった。科学的な根拠に基づいた教育が行われるべきだ。」との見解を述べています。そのうえで「処理水が安全であることを理解させる取り組みを強化するよう、全国の教育委員会に求めること」「文部科学省作成の放射線副読本の活用促進、経済産業省・資源エネルギー庁の出前授業によって、汚染水という言葉を使わないように教員研修を強化すること」と主張しています。

この意見書案は、教育に政治が介入することを求めるものであり、極めて危険な内容です。教職員組合による教育研究集会での事例と、それを問題視した新聞記事だけをもとに、政府見解と異なる見解を児童・生徒に伝えないよう、教育委員会や教職員に圧力をかけようとするものになります。

 私たち福島県民には、3・11東日本大震災・東電原発事故以前に、一方的な言説を広めた苦い過去があります。かつて、福島県と特定市町村からの委託金で運営されていた福島県原子力広報協会は、福島県が監修する広報誌『アトムふくしま』の発行や講演会、「原子力の日」記念行事などを行いました。その一環として行われた作文・標語コンクールでは、「安全神話」に基づいた作品が賞されていました。同時に、これらに参加する児童・生徒を、教職員は直接・間接に指導することになってしまいました。

教職員の教育研究集会は、多様な実践を交流する場であり、報告は実践の一つにすぎません。参加する教員がその報告をどのように受け止めるかも、彼ら自身の自由です。政府が出前授業や副読本の使用を各県教委に強く求めることで、かえってこれらの内容が「科学的事実」の周知でなく「政府見解」の広報のために作られているとの疑念を教育現場や国民に抱かせる可能性があることを危惧します。

処理水問題は、政治的にも科学的にも異なる見解があります。「科学的な知識」は長い期間支配的かもしれませんが、研究の進展によって常に更新される可能性があります。特定の言説や多数説を絶対視することは、それこそ科学的態度ではありません。

学校は、児童・生徒を様々な考えに触れさせ、自分の考えを形成していく手助けをするところです。文部科学省が進めている「総合的な探究の時間」は、現代的な諸課題に対応した課題を設定することを求めており、多様な考え方のなかから科学的思考を学び、自己教育の力を養うことを目標としています。個々の教員であろうと政府であろうと、一定の考えを押し付けるような教育は、私たちも支持しません。

しかし、この意見書案は、政治が教育現場に介入するという、最も避けるべき行為を国に促しています。意見書案が採択されれば、結果的に教職員を委縮させ、政府見解だけを教えることになった過ちを繰り返す恐れがあり、過去の反省に照らして、私たちは容認できません。主権者教育の重要性が叫ばれるなか、処理水の生成から放出に至ることになった歴史、その対策も含めて、児童・生徒が様々な視点から考える機会を奪われることなく、より安全な社会を目指すために、意見書案を撤回し、採択しないことを求めます。

 

【資料】

・「原子力の日」記念論文、高校生の部最優秀賞

 紙上紹介『福島民報』19901121

「まず、反対運動を展開している人々が何を主張しているのかを本県の反原発運動を見てみると、①原発はチェルノブイルのような大惨事を起こす可能性がある。②国や電力会社はこうした事実を隠している。(中略)

こうした運動が、科学的論理性に欠けていながら、大変わかり易い説明やイラスト入りで構成されたチラシや単行本になって、多くの人にその危険性を強くアピールされている。(中略)

そして、関係者だけでなく国民一人一人が、原子力発電に対して正しい知識と理解が得られるように絶えず努力していかなければならないと考える。若い私たちが今、それに目覚める時と思う。」

 

・中学生「私たちのまちと原子力発電所」

『アトムふくしま』2004年3月28日発刊臨時増刊号

「『原子力発電』と聞いて思い浮かぶのは『危険』という言葉でした。

しかし先日、中学校で『安全教室』として原子力発電についてお話していただき、それは私の誤解だったということに気付きました。その時は、原子力発電所での安全対策と、万が一事故が起きてしまった時はどうすればよいのかを教えてもらいました。とても勉強になりました。(中略)

 

ウランを厚い鋼鉄などで、何重にも囲んでいるというのですから、よほど安全には気を配っているのでしょう。ここまで聞けば、『原子力発電だって安全なんだ』と思うことができます。」